動きだした時計は止まらない。

 

「お前んとこにはどんなやつが入ってくんだよ?」
 
タバコをふかしながら三本角のある目つきの悪い鬼が俺にそう言った。
 
 
 
あいつからのあの告白を受けて数十年―――――。俺の時はまだ止まったまま―――――。
 
 
 
 
 
 
 
「檜佐木先輩!」
 
「吉良。久しぶりだな!どうだ?憧れの三番隊は?」
 
書類を届ける途中に懐かしい面子に会う。少し前にこの護廷十三隊に入ってきた俺の後輩である吉良イヅルだ。
 
「まぁ…その…や…りがいが…ありますよね…?」
 
言葉を濁しながら言う吉良を見て苦笑する。吉良の入った三番隊は別に隊内でのいじめや差別などはないが隊長の市丸ギンが少々難あり
で、仕事を部下にまかせっきり、という問題がある。吉良はあの学院時代であった事件からずっと三番隊に入りたいと思っていたらしい。そして見事三番隊に所属できたのだが、隊長のサボり癖があるため、生真面目な吉良は常に骨を折っているらしい。
 
「あんま、真面目に考えんなよ?また飲みに行こうぜ。」
 
吉良とはあの事件からの付き合いで今でもたまに飲みに行っている。しかし、最近はお互い忙しくて顔を見合すことさえなかった。
 
「そういえば・・・」
 
吉良がふと呟く。
 
「檜佐木先輩、知っていますか?今年入って来る新隊員。」
 
その時は何も考えず、ただそんな季節か、と思った。
 
「知らねぇけど…」
 
そう言うと吉良が何とも言えない表情をしてこっちを見た。
 
「阿散井君が入ってきますよ。」
 
 
 
あばらいれんじ
 
 
数十年ぶりに聞いたその言葉は一瞬にして俺を縛り付けた――――――。
 
 
 
「以上が新しく九番隊に加わる隊員だ。みんな、よろしく。」
 
緊張からか、扉に立った新人隊員達は手が震えていたり、背筋を不自然のごとく伸ばしていたりとなんとも初々しい態度である。そんな隊員達の緊張をほぐそうとしてか、九番隊隊長の東仙要がにこりと笑う。
 
「私が九番隊隊長の東仙要だ。そんな緊張せずに仲良くやっていこう。そしてこっちにいるのが…」
 
隊長が俺のほうを見る。
 
「九番隊副隊長の檜佐木修兵だ。九番隊は死神の任務だけでなく、瀞霊廷通信の編集も行っている。大変なときが多々あるが一緒に頑張って
いこう。」
 
怖がらせないようにゆっくり笑みを浮かべる。ここで怖がらせてしまってはせっかく入ってきてくれた隊員達のやる気を削いでしまう。できるだけ入りやすい雰囲気を作ること、これは俺が入隊したときに教えられたものだ。
 
 
 
俺のいる九番隊は死神の通常任務のほか、書類のまとめや瀞霊廷通信の編集なども行っている。そのため、集まってくる人はどちらかというと大人しめの奴等が多い。間違っても十一番隊には向かない奴等ばかりだ。今年もそんな感じの隊員が集まった。数としてはまあまあだろうと思いながら俺は、三番隊にいる吉良のところへ行こうと廊下を歩いていた。外には満開の桜が咲いている。そう考えるだけで桜の香がするような気がするのが不思議だ。今夜あたり、吉良たちを誘って夜桜でも見に行こうかと思っていた。ふと気付くと進む先に黒い影がある。大柄な影…足元から順に上を見上げていくとそこにいたのは…
 
「お久しぶりです。檜佐木先輩。」
 
数十年前、あの日、一瞬のあの口付けのようなことをして別れた後輩がいた―――――――。
 
     

                                                                                                →続く