この日には手にいっぱいあの花を持って、あんたに会いに行こう。
「うわっ!!悪ぃ!」
ぶつかった相手に詫びるが、足の動きを止めることはできない。早く行かないと。日が落ちてしまう前に。あの場所へ。俺はそのまま隊舎の廊下を走っていった。
「恋次!何慌ててんのよぉ」
急に声を掛けられ、俺は急いで止まる。聞き覚えのある高い声。
「なぁにそんなに慌てて。朽木隊長に怒られるわよぉ?」
その名前を出されてツッと背筋に冷たい汗が流れる。だが…ここで六番隊舎に戻るわけにもいかない。
「…百も承知っす…、乱菊さん。」
「あら、怒られるの分かっててそんなことしてんの?」
乱菊の胸元の死魄装を大胆に開け、パーマかかったブロンド髪は窓越しの日差しに当てられキラキラと輝いている。
「いろいろあって…ってやべ!それじゃあ乱菊さんまた!」
俺は乱菊さんに軽い会釈をして、また走り出した。
朽木隊長に怒られることは仕事をほっぽりだして今ここを一生懸命走っている時点で分かりきっている。だが、隊舎に戻り、仕事をするよりもっと大切なことがある。前々から考えていた。あの人の大切な日に送るもののことを―――――。
外に出ると夏の日差しがガンガンに照りつけてくる。真っ黒で長袖の死魄装は夏には不向きの服である。そう考えるとあの人の死魄装は夏にはいいかもしれないと思いながら、俺は真っ先にあの場所へ向かった。
「っはぁ…あぁ、よかった。まだ咲いている。」
辿り着いたその場所で目の前に広がるのは一面の黄色、すべての花が日に向かって咲く向日葵の花―――――――――――。
「…やっぱり、この花はあんたに似合うよ、修兵さん。」
「何やってんだ、こんな時間まで。」
いきなり扉を開けられ、俺は驚いた。扉のほうには夏には最適であろう袖なし死魄装を着こなす九番隊副隊長の姿がある。
「修兵さん!?何でここに!?」
「何でってこんな時間までここの電気がついてるから?珍しいな、お前がずっと仕事してるなんて。」
そう俺はあの後、こっそりと隊舎に戻り、仕事に取り掛かろうとした。しかし、どうやら俺のこっそりは全然こっそりではなかったらしく…仕事に取り掛かって数分後に隊長に見事こっぴどく怒られてしまい、いつもの倍の仕事をもらってしまった…。
「どうせ、サボってたのがバレたんだろ?」
笑いながら俺の傍に来て座り、机の上にある書類を手に取る。言われたことがあながち間違っていないため、俺は何も言えない。
「ほら、俺も手伝ってやるからさ、早く帰ろうぜ?な?」
俺の顔を見ながら、ニコッと笑いかけてくるこの人に見惚れながら俺は今日が何の日かを思い出す。
「だめだめ!!駄目っすよ!!あとちょっとなんで修兵さんはここで、じっと、してて、ください!!」
この人に仕事をさせるわけにはいかないと思い、俺は必死に仕事に取り掛かった。俺の必死さが伝わったのか、この人は何も言わず、俺の
傍でじっとしている。傍にいられて気恥ずかしいような心地いいような不思議な感覚がする。何なんだろうか、この感じは。俺はその感覚を体
全身で味わいながら俺は手を動かす。
どのくらい経っただろうか?机の上にある書類の量は残すところあと1枚になっていた。ふと横を見ると、うつらうつらと舟を漕いでいた。俺は
その無防備な姿に嬉しくなる。動かしている手を止めて俺はそっと愛しい人の額に触れる。指先から伝わるこの人の体温に酔いながらこの人の背負っているもの、先に見つめているもののことを考える。手をそっと離し、残り一枚の書類に取り掛かる。この人の背負っているもの、先に見つめているもののことを思いながら…。
「…ん…?ああ、寝てたのか…。恋次…しごとは…?」
「ああ、ちょうど終わったすよ!」
両手を上に上げながら背伸びをし、欠伸をする。
「じゃあ、帰るか?」
「そっすね。あ…ちょっとついてきて欲しいところがあるンすけど…」
「帰り道なんだろ?別にいいぜ?」
俺は時刻を確認しながらある場所へ案内する。あの花を摘んで置いてある場所へ。
「あのぉ…ちょっとここで待っててください!」
「はぁ…。」
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