恋次に「好きです」って告白された。それは別によかったんだが、告白された次の瞬間、床に押し倒されていた。そしてそのままキスとかされ
て、気付いた時は裸のまま朝を迎えていた。手が早すぎて、これから身が持たねぇかも…と思った次の日、飽きれる位コロッと変化した恋次
の態度に告白されたことすら忘れそうになった。
俺の所属する九番隊はいつも温和な日、というわけではないが、ここ数日はずっと特別な仕事もなく、平和に時間が過ぎていった。
「よし、じゃあこれを六番隊に持って行くからもう今日は終わりだな。」
俺は六番隊への書類をまとめながら、三席へ声を掛ける。
「はい、お疲れ様です。」
三席は一礼して部屋から去っていく。それを確認した俺は、立ち上がって書類を六番隊へ届けに行くことにした。今日の仕事はそれで終わり
なので、帰り際、恋次に声でも掛けてやろうと思いながら六番隊の隊舎へ向かった。その途中、よく知っている大柄の男を見つける。暑苦し
い位の赤くて長い髪を一つに束ね、顔だけでなく全身にまで刺青を入れている男、そして、俺の恋人でもある、阿散井恋次だ。
「恋次。」
「しゅ…檜佐木さん。」
いつもの恋次ならば、「修兵さん!」と言って、犬のように見えない尻尾を振りながら俺へ抱きついてくるはずなのに、今日の恋次はそんな素
振りを一つも見せない。むしろ、どこかソワソワしている。
「恋次、何か変だぜ?」
「なんもねぇっすよ。それより、どうかしたンすか?」
ああ、と返事をした俺は、脇に抱えていた書類を取り出してみせた。
「コレ、六番隊に預けに行こうと思って。」
恋次に見せると、その書類を俺の手からサッと取り上げ、「俺が持って行きます、ちょうど帰りなんで」と言った。俺はその行為にありがたく甘
えることにした。
「それじゃあ…」
ペコリと俺に一礼して去ろうとする恋次を俺は慌てて引き留める。
「ちょっと待て!今日、俺、これで上がりなんだけどさ…今日、俺んちこねぇ?」
恋次と付き合ってまだ日は浅い。けれども、俺の家に来た回数は多く、いつも恋次の方から「行っていいですか?」と言うばかりで俺から誘う
ことはなかった。俺は恥ずかしなりながらも恋次に尋ねる。
「あ~…今日はちょっと遅くなりそうなンすよ。」
スンマセンと片手を顔の前にやって、申し訳なさそうに謝った。俺はまさか断られるなんて思いもよらず、少し、拍子抜けしてしまった。
「ああ、そっか…じゃ、また…。」
軽く手を振って、恋次と別れる。重い足取りで隊舎へ戻ろうとするが、なかなか隊舎へ着かない。
「ショック…なのか…?」
声に出して呟いてみると、思ったよりも自分がショックを受けていたことに気付いて、笑いが込み上げる。
「バカじゃねぇの…」
吐き捨てるように言って、俺はさっさと隊舎へ戻った。
俺はアイツには言っていないことがある。それは、俺が結構アイツのことを好きだ、ってこと。告白されて、俺もだ、って思ったんだが、気付い
た時には結構ドップリ浸かっていた。今まで仕事が早く上がった日なんか、吉良とか呼んで酒飲んだり、大好きな料理やギターなんかをし
たりして、時間を有効に楽しく使っていた。でも告白された今、俺はもっとアイツと一緒にいたいって思う。二人っきりで話したいとか抱き合い
たいとか…。こんなことばっかり思う俺をメンドクセェって思ってんのかな…。
おかしい、おかしすぎる。誰がかって言うとあの恋次が、だ。今までは1日置きと言わず、毎日のようにやって来ていた恋次が、俺を見つける
とすぐとびついてきた恋次が、まるで俺を避けるかのよいうな態度をとっている。仕事中に隊舎内で会っても、まるで仕事の上司と部下のよ
うな挨拶。ましてや、休憩中でもである。そして、あれ以来、俺の部屋に恋次が来ることはなかった―――。
「おかしい…何でだ?」
本当に俺が面倒くさくなったのか?嫌いになったのか?俺はここ数日、ずっとそのことばかり、気になっていた。嫌われていたら…という不安
で本当はあまり眠れていない。本当はすごい好きなんだ、って言わなきゃいけない。もっとお前と一緒にいたいって。でも、もし、拒否された
ら…?俺はきっと立ち直れない。
完全に手が止まっていることに気付いた俺は、再び仕事を始めようとした。すると、いきなり扉が開かれた。
「しゅーへー!!!!」
「乱菊さん!?」
ドカドカと入ってきて、俺の前に座る。どうやら、ご機嫌斜めのご様子だ。
「ちょっと修兵!何で私に嘘つくの!?そんなに私と飲むのが嫌なの!?」
乱菊さんは俺の死魄装を掴んで、激しく揺さぶる。俺は揺さぶられながら、ここ数日間で、乱菊さんに飲みに誘われたかを思い出そうとし
た。
「…俺…誘われてません…。」
しかし、いくら思い出そうとしても思い出せない。なぜなら、ここ数日間は、ずっと仕事が終わるとすぐに帰宅していたからだ。誰からも何の
誘いもないため、暇を持て余していたところだったのだ。仕事というものは、早く終わってほしくないときにこそ、早く終わってしまうものであ
る。
「嘘!?だって私、ちゃんと伝えたわよ!?」
誰に…?
「恋次に!!」
ああ、よくわかった。恋次は俺のことなんて、本当にどうでもよくなったってこと。
「ちょっと…修兵…大丈夫!?顔色、悪いわよ!?」
乱菊さんの声が遠くに聞こえる。
「熱でもあるの!?」
乱菊さんが俺のおでこに手を当てる。俺の目の前がゆらゆらと揺れ始め、意識が朦朧とする。…気持ち悪い…泣きそう、泣きたくない。俺は
弱くない…ううん、これはただの強がり…弱いよ…。
「誰か呼んでくるから!待ってなさい!!」
乱菊さんが慌てたように出て行った。誰も来ないでほしい、一人にさせてほしい。もっと冷静に考えなくちゃ…。恋次が俺に飽きたこと、どうで
もようなったこと。悲しくて悲しくて、思っていた以上に苦しくて…助けて、恋次。
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