ロマネスク 第七話

 

家の仕事は大変だった。
とは言うものの、本々リボーンには才能がある。5年も経てば彼を子供だと言う者はどこにもいなくなった。
仕事は順調である。
 
今年から足を踏み入れた携帯産業のことで、今のリボーンは頭がいっぱいだった。
不祥事を起こし、メディアに叩かれ、自己破産になりかけた企業をそのまま買い取ったのだ。
周囲からは、無謀だと言われたが、リボーンの見立てによると企業そのものに問題はない。
機械の性能もいいし、技術者の腕も悪くはない。
上に立つ者の問題だ。とリボーンは主張した。
 
そしてリボーンの主張通り、ここ一年で飛躍的に販売数を伸ばしている。
 
そこまではいいのだ。順調で、リボーンの思惑通りだった。                                              
しかし、その部門の最高責任者の男が何とも曲者なのである。
 
 
「社長、次回出す機種の最終案が出来上がりましたので、よろしくお願いします。」
 
 
パイナップルが現れた。
リボーンはため息をつき、
 
「わかった、そこへ置いていけ。」
 
と、疲れたようにいった。
そして眉を顰め、そのまま出て行け!と念じると、彼は書類をおき、部屋を出る…かに思えたが、リボーンの机の上にあるベルをならした。
 
リンッ
 
となる音に反応するように、奥の控え室のドアが開いた。
さらに、リボーンの眉間の皺が深くなった。
 
「はい、お呼びでしょうか。」
 
このパイナップルつまり六道骸は綱吉の事を気に入っている。
リボーンは今日も綱吉に話しかけつつこちらを面白そうに伺ってくる骸に小さく舌打ちをして睨みつけた。
そろそろ我慢の限界である。
この男には一度はっきりと言ってやらなければならないと思い、リボーンはツナに席を外すよう言った。
 
「何でもない、さっきの書類は終わったか。」
「先ほど、終わらせました。」
「そうか、なら今日の仕事はもう終わりだ。自室に戻っていい」
「…ありがとうございます。お先に失礼いたします。」
 
しかし会釈をし、綱吉が部屋から出て行こうとすると骸が引き止めた。
 
「綱吉さん。仕事が終わりなら一緒に夕食でもいかがですか?僕もこの書類を出して今帰るところなんです。」
にこやかな笑みを浮かべる
確かに先ほど自分が骸に部屋をさっさと出て行くように言った。
 
今までの己の行動が、骸に踊らされていたものだと気付いたリボーンはまた小さく舌打ちをして骸を睨んだが、やはり骸は笑顔でそれを受け流した。
 
「ええ、いいですよ」
 
綱吉が返事をした。
綱吉はほとんど毎日一人で食事を取る。(と、言うのも勿論リボーンがそうなるように圧力をかけているからだ。リボーンが怖くてだれも綱吉を食事に誘うことはできない。)
なので、久々の他人との外食が嬉しいのだろう。綱吉はとても楽しそうだ。
それに加えてリボーンが気に食わないのはこの六道骸と言う相手であった。
 
実はこの男もまた、自分が知らない綱吉を知っているのだ。
詳しいことは知らないが、この男は綱吉と同じ孤児院で育ったらしい。
リボーンの会社に入ったのも綱吉が居るからだと言い、何よりふざけた言動とは裏腹に、その瞳は真摯に綱吉を追っていた。
綱吉も骸にはどこか気を許している節があった。
孤児院ではまるで兄弟のように育ったそうだ。
 
今日もまたリボーンは自分とは違う形の信頼関係を見せつけられて、嫉妬してしまう。
しかし、綱吉の嬉しそうな顔にリボーンは食事に行くなとは言えなかった。
 
もう一度「お先に失礼いたします。」と言って二人が出ていく。
 
 
 
パタリとドアが閉まるとリボーンは机の上のベルをもう一回鳴らした。
やはり綱吉は来なくて泣きそうになった。

 

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