⑤
リボーンは目を開いた。
その本が今無性に読みたくて仕方がなかった。
あの頃の綱吉は今よりもっと笑っていた。
自分も、今よりずっと笑っていた。
しかし、たしかあの本は自分が字の読めるようになる前にどこかに消えてしまったのだ。
リボーンは字が読めるようになってその本を探しまわった事があった。自分の部屋にあると思っていたが、どこを探しても無かったのだ。
部屋を掃除するメイドに尋ねても、勝手に捨てるはずがないと青い顔をして必死に言われれば、それ以上聞けなかった。
綱吉に聞けば分るかと思い、聞いてみたが、少し考えた後に、知らないと言われた。
残念だと思いつつも、ないものは仕方ないと、その本の事をすっかりわすれていたのだ。
リボーンは起きあがると、まずシャワーを浴びた。
昨日、考え事をして、そのままの格好で寝てしまったのだ。
さすがに上着は脱いでいたのだが、ズボンに皺が寄っている。
シャワーを浴びると、髪を乱暴に拭いた。
時間をみるとまだ朝とも深夜とも言える時間だったのだが、気にせず綱吉の部屋に向かった。
いつも通りノックもせずに部屋に入ると、驚いたことに綱吉がその本を開いたままシーツに足だけ突っ込んで寝ていた。
最初は気づかなかったのだが、珍しく起きた親切心で腹の上の本を退けてやると、探していた表紙だったのだ。
リボーンは少し腹をたて、何も言わずにその本を自室に持ち帰った。
あすの朝本が無いことに気づいた綱吉がどうするか考えてみて、自分が取っていたときっと彼は気づくだろうと満足すると、その本を読みだした。
その本を読んだリボーンは、先ほどの満足感からは程遠い気持ちでいた。
確かにこの表紙には見覚えがある。
なにより、本の裏にきちんと書いてあるのだ。不格好な字で初めて書いた自分の名前が。
しかし、
この本には王子様は出てこなかった。
捕らわれたお姫様は誰にも救ってもらえなかった。
だれも何時までも幸せにはなれなかった。
リボーンは何で綱吉がこの本を自分に見せなかったか理解した。
綱吉はこの本を読んでなかったのだ。
この本を開いて、
自分にこんな救われない話を聞かせないように得意でない話を自分で作ってみせた。
本を読む前のあの少し困った笑顔はそのためだったのか。
よくつっかえるのも、読み終わった後に自分に必ず面白かったか聞くのも。
もう、心の中に嫉妬心はなくなっていた。
自分はこんなに愛されていたのだ。
時計を見ると、時間はまだ早く、綱吉が起きるまでまだ1時間はあるだろう。きっと綱吉はこのことを知られたくないのだ。
俺があの時の事をすべて知っていることに、綱吉は気づいていない。
俺がこんなにもお前を好きなことをお前は知らない。
リボーンは綱吉が気づかないうちに本を元あった場所にかえし、綱吉が起こしに来るまで、眠った。
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