「どうして・・・」
血の海の中に立つ少年に向かってリボーンはつぶやいた。
少年の足元にはリボーンの両親が息をすることなく、血を流していた。
少年の瞳は絶望と、悲しみを映していた。
「どうしてお前が・・」
リボーンのそれはひどく絶望を浮かべた瞳であった。
「・・・ツナ!」
綱吉は、初めて見るリボーンの表情から目をそらした。
プロローグ
心地よい秋のポカポカと晴れた日だった。
今日5歳になったリボーンは、仕事の忙しい両親と初めて一緒に誕生日のティータイムを過ごすために、父の書斎へと走っていた。
父と母が、新しく揃えた陶器でできたまっ白なアンティークのカップと、母の手作りのお茶請けを作って待っているはずである。
リボーンの両親は、仕事の忙しさにかまけてリボーンに構うことはないが、その代りに専属の執事である綱吉がリボーンの事を見てきた。
まだ若い執事ではあるが、祖父が病気にかかる前に孤児院から連れてきた、それは優しい人物である。
両親が自分を愛してはいないとリボーンはわかっていた。
そして、表には出さないが、誰よりもその綱吉を信頼し、綱吉もただ一人の自分の主人として、とてもリボーンを大事にしていた。
今日は起しに来たのが珍しく綱吉ではなかったので、リボーンは少し寝坊してしまった。
誰よりも彼に一番に祝って欲しかったが、仕事なのでは仕方がない。
愛していないはずの両親が珍しく自分の誕生日に家にそろって、そして自分と一緒に過ごしてくれるという状況に、リボーンは困惑しつつも、温かいきもちになった。
リボーンは綱吉以外にはあまり支度を手伝わせないので、一人で準備したため少し手間取り遅れそうになったが、一生懸命はしってきたので何とか時間に間に合うことができた。
両親も綱吉の事を気に入っているので、もしかしたら部屋でお茶の準備をしているのはツナかもしれない。
ドアの前で、ノックをしながらリボーンはめったに見せない子供らしい笑みをこぼした。
ノックをするが、中から返事がない。
急な仕事でも入ったのだろうか。
そう思ったものの、その場合は今まですれ違ってきたメイドや執事たちが自分に何も言わない訳はないと思いなおし、もう一度ドアを叩いた。
やはり返事はなく、少し躊躇したがドアノブに触れてみると、重そうな見た目とはちがい簡単に空いた。
中には予想道理綱吉がいたが、予想とは違う今にも泣きそうな顔だった。
そして、父と母はしんでいた。
血まみれの綱吉は、呆然とするリボーンに言い訳をしなかった。
俺が殺した
俺を殺して
綱吉の瞳が語った。
「どうして・・」
リボーンはつぶやき、もう一度綱吉をみると、綱吉の眼に絶望はあったが後悔はなかった。
「どうしてお前が・・・ツナ!」
リボーンは唐突に全てを理解した。目の前が真赤になるほどの怒りと、自分を裏切った者に対して一瞬でも心を許していた自分への羞恥心、そして今目の前にいる人物に対しての色々な感情が混ざり合い、まるで縋るように、名前を叫んだ。
その声を聞きつけた使用人のランチアがやってきた時、リボーンは何も言わずに血まみれの綱吉に抱きついていた。
綱吉に表情はなく、リボーンは綱吉から離れようとしなかった。
その光景に、ランチアはゾクリとした。
何かを感じ取ったように、二人をシャワー室に連れて行き血を流すよう促した。
シャワー室から出てきた二人に持ってきた服をきせ、リボーンの部屋につれていった。
ランチアは、このまだ幼い次期当主のことも、執事のことも気に入っていた。
何故このような状況になったのかは分らないが、血まみれの綱吉と、それに抱きつくリボーンは、自分の庇護しなければならない存在だと、本能が告げていた。
綱吉が殺したのだろうか
死体を片付け終わり、他の使用人には侵入者が入り、二人は殺された。と伝えた。
ランチアは自室で、今日の事を考えていた。
常識的に考えて、綱吉が殺したのならあの二人を一緒の部屋に連れて行くのはまずいだろう。
しかし、リボーンの綱吉に対する依存。それがありありと見え、綱吉の絶望と悲しみに染まる眼は、足元に横たわるリボーンの両親にしか向いてなかった。
あの二人の関係はまるで相互依存であり、
“今二人を引き離すと死んでしまう”という錯覚をその時ランチアは感じたのだった。
もし、明日の朝にリボーンが死んでいたら、それは俺のせいだな。
そう思いつつも、ランチアは明日になれば、リボーンと綱吉がいつもどおりの関係に戻っていることを心のどこかで確信し、眠りに就いた。
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