ログ①

パラパラと音がする。窓の方を見ると雨が降っていた。

「雨か…。」

ここ、ソウルソサエティでも梅雨の時期になったのだ。たしか、現世でも梅雨ではなかったか…と、ふと思った。

「げっ!雨降りだした!!」

隊舎に戻ろうと振り向いたとき、梅雨の時期には少し暑苦しい髪形をした男が玉を持って窓を見ている。

「…これじゃあ、玉蹴りできねぇってあれ?先輩?」

「よう。」

その男は俺の方を見て、玉を抱え寄ってくる。玉蹴りをしようとしていたらしく、死魄装の袖を肩までめくり、落ちないように紐でくくっている。

「雨っすよ~!せっかく玉蹴りしようと思ってたんすよ、俺!…最近雨多いっすね。」

パラパラと降っていた雨はだんだん強い音へ変わっていく。梅雨の時期だ、いつ、どんなタイミングで雨が降ってきても仕方がないだろう。

「梅雨…だからだろ。」

「俺、梅雨の時期嫌いっすよ…。」

すねたような口調でそう言うので俺は思わず、苦笑してしまった。

「お前が嫌いなのは玉蹴りができねぇからだろ。」

「んまぁ…そっすけど!先輩は梅雨、嫌じゃないっすか?」

ん~と考えて窓を眺める。どうやら雨は激しくなるばかりで止む様子はしばらくないようだ。

「どうだろうなぁ…」

ふっと横を見ると、梅雨のいきなりの雨でやる気をなくしている男の髪がさらり、と揺れる。

その時、自分が意外にもこの時期が嫌だと感じない理由がわかった気がした。

「俺は・・・嫌いじゃねぇ。」

「なんでですか!!??」

窓を見ていたその音はいきなり俺の肩を掴んで「玉蹴りとかできないんすよ!!??」と詰め寄ってきた。

その姿があまりにも必死で俺は思わず声を出して笑ってしまった。

「ははっ!お前、必死っすぎっ!!」

「なんなんすか…教えて下さいよ!」

「は~…腹痛ぇ…」

やっと笑いが止まった俺はお腹を抑えて、もう一度あの赤い髪を見る。

「…何となくだよ。」

「何んとなくって…」

俺の答えに不満そうな顔をする。

「よし、じゃあお前暇になったんなら仕事手伝え。」

「ええっ!!??」

持っていた書類を手渡し、隊舎の方へ俺は歩き出す。後ろからは俺の後をついてくるあの男の足音が聞こえた。


梅雨の時期になったら、ほんの少しだけれどお前の赤い髪が深い色になるんだ。それはよく見なきゃ、わからないくらいだけれど。この時期にしか見られないから、俺は・・・梅雨が嫌いじゃねぇよ。
 

                                                                                                                      7.1   萌絵

 

                                                                                                                              

パラパラとこの時期に聞きなれた音がする。俺はまたか、と思い扉を開ける。

「ぜったい、俺タイミング悪い…。」

帰ろうとした手先、雨が降ってくる。だから嫌なのだ、こんな時期は。しかも今日に至っては、朝寝坊してしまったせいで傘を忘れてきてしまった。

「どうすっかな…濡れて帰るか…?」

今降りだしたのだ、当分止みそうにない雨を眺めながら俺は自宅まで走ろうかと思った。傘を持ってきているであろう理吉も先ほど自分より先に帰って行ってしまった。

「だからヤなんだよ、梅雨って。」

ただでさえ蒸し暑く鬱陶しいのに、予期せぬタイミングで降ってくる。おかげで何度自分の計画が崩れてしまったことか。

そう思っているうちに雨はだんだん激しさを増す。

「げ…さっき帰ってた方がよかったかも…。」

今、一歩でも外に出たらきっと死魄装はおろか下着の中まで一瞬にしてびちゃびちゃになるだろう。俺はいつもより自分に近い雲を見上げ、早く止むことを祈った。

「何してんだ、お前。」

背後から声を掛けられる。振り向くとそこにいたのは、赤い番傘を持ち、二の腕の出ている死魄装を着たあの人だった。

「あ…傘忘れたンすよ。」

「ばっかじゃねぇの。いつも持って来いよ、この時期は。」

笑いながら俺にゆっくりと近付いてきて、扉の前で赤い番傘を開く。バサリ、と音を立て、大きな円ができる。

「朝、寝坊したら忘れたンすよ。」

「寝坊するのが悪ぃんだろ、で、どうすんの?」

「え・・・止むのを待ちますけど…。」

そう言うとその人はふうんと興味のなさそうな返事をし、雨の中に足を踏み入れた。そういえば、この人はいつか、この時期が嫌いではないと言った。俺はこの時期が嫌いなのに。不思議だった。こんなにも鬱陶しい季節が嫌いではないなんて…。

「で、いつまでいんの?やむまで?」

「そっスよ…。」

いつ止むか分からないのに、と言われたがそんなこと俺もわかっている。

「じゃ、お疲れっす。」

俺は止むはずのない雨が止むのを待つ自分が少し恥ずかしくなり、早くひとりになりたくて挨拶をした。するとその人は口端を軽く上げ、傘を俺の方へ突き出した。

「入らねぇの?この傘さ、前のやつよりかちょっとでかいんだけど…。」

そう言ったあの人の顔は少し頬が赤くなっていて。ああ、やっぱりあなたには赤が似合うと思った。

俺は雨の中へ足を踏み入れ、あの人の側まで行く。あの人より少し背が高いから傘を持つ役は俺で、あの人は一度だけ俺の方を見て「俺が濡れねぇようにしろよ」と言い、少しだけ俺の方へ肩を寄せた。


ああ、こんなことがあるなら雨もたまにはいいかもしれない。
 

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