あいつは…俺の友達なんだ…きっと、一生。
あいつとは友達だったはずだ。友達であり、ライバルだったはずなんだ。でもいつから?いつからこんな風に思うようになった?それが分から
ない。気づいたら…好きになってたんだ…。
「一護!」
派手な赤い色の髪の毛をしたあいつが手を挙げて、ドカドカと歩いてくる。
「恋次…。」
ルキアに半ば、無理矢理連れてこられた俺は一人で座っていた。俺を連れてきたルキアは颯爽と六番隊隊舎へ行ってしまった。
「あちー。」
死魄装をバタバタさせて手で仰ぐ恋次を横目で見ながら、俺は筋肉のついた腕だとか、死魄装から覗く胸元だとかにドキッとする。いつから
こんなことになったんだろう…。いつから俺は恋次を好きになったんだろう…。
「そーいえばよぉ、聞いてくれよ!」
「何だよ、またあの人か?」
恋次が思い出したように俺に話題を振ってくる。こんな風に言ってくるのはあの人の話題しかない。あの綺麗な顔立ちのあの人。
「もう…本気で殴るとかありえなくね?仮にも恋人だぜ?」
「どぉせ、恋次が変なことでもしたんじゃねぇの?」
俺は平常心を保ちながら、言葉を返していく。気づかれまいと…動揺がばれないようにと。恋次のセリフを頭の中で何度も何度も繰り返し
て、理解していく。
「ひっでぇ…。」
すねたらしい恋次は口を尖らせて、シュン、となる。犬みてぇ…俺はすぐにそう思った。今すぐにでも頭をなでて、そんなことねぇ、俺がいる、
俺があの人の代わりになるから、そう言いたい衝動に駆られる。でも…ダメなんだ。恋次は…
「黒崎。」
向こうからある人がやってくる。恋次はその人の声に過敏に反応した。
「修兵さん!!」
「久しぶりだな、黒崎。」
恋次の声を無視してその人、檜佐木さんは俺に笑って挨拶をしてくれた。俺も挨拶をする。
「朽木に連れてこられたんだろ?」
「そうなんすよ。」
大変だなぁ、と苦笑しながら檜佐木さんは俺の横に座った。この人は本当に綺麗だと思う。気さくな性格で真面目、身長も高く、均整のとれ
た体…何もかもがそろっている。
「ちょ…!修兵さん!俺に挨拶は!?」
「はぁ!?わけわかんねぇこと言ってんじゃねぇよ。」
恋次が俺を通して檜佐木さんに必死に言う。それに対して檜佐木さんはつまらなさそう顔をしている。俺は思わず、笑ってしまう。
「笑われたじゃねぇか。」
「知りませんよ。一護も笑うな!」
「ぶはっ!!」
俺は耐えきれなくて噴き出す。恋次と檜佐木さんが笑われたのはお前だ、とか言いながら言い合いをしている。その空間はとても親しげで、
言い合いの原因は俺なのにその空間に入れてない気がした。
何度、何度、その檜佐木さんの場所を願っただろう。あんたが俺だったらとか、柄にもないことを思っただろう。そして、どれだけ自分が馬鹿
なんだと思っただろうか。わかってるんだ…、ちゃんと…。
「ったく、あ、黒崎、あとで九番隊隊舎に寄ってくれねぇ?渡してぇもんがあんだ。」
檜佐木さんがゆっくりと腰を上げて、立ち上がる。俺はわかりましたと返事をした。
「じゃぁな。」
檜佐木さんは再び、仕事をするため隊舎に戻っていった。また俺と恋次が二人っきりになる。
「仲良いな。」
「…喧嘩ばっかだけどな。」
恋次が苦笑いしながらそう言う。この顔を見たのは二度目だ。初めてみたのはあの時、俺に好きな人がいると言ってきたとき。檜佐木さんは
強く見えて本当は弱いんだと、俺が支えてあげたいと言ってきたとき。あの時もこんな顔をしていた。苦笑いなのに幸せそうな顔を…。
「…恋次…。」
ふと、俺が呟く。
「なんだよ?」
恋次がいつもの顔でこっちを向く。
「…俺が…」
風が吹いた。俺は気付かれないように深呼吸する。
「俺が…お前のこと好きだっつったらどうする?」
数秒、視線が絡み合う。俺にはその一瞬がとてつもなく長い時間に感じた。
「…馬鹿なこと言うなよ、一護。笑えねぇぞ?」
恋次はそう言いながら、にっと笑う。俺はその笑いでさっきの緊張が一瞬で溶け、つられて笑ってしまう。
「だよな、笑えねぇよな。」
「てめぇのギャグのセンスも落ちたんじゃね?」
「うるせぇ、変眉。」
「なんだと!?」
いつものような会話になり、俺たちは笑いあった。俺は安心しながらも少し、切なくなった。
「じゃぁ、俺、檜佐木さんとこ行ってくるわ。」
「あぁ、俺は隊舎に戻るわ。」
俺と恋次は立ち上がって、お互い、逆の方を向く。俺はもう一度、恋次に問いかけた。
「恋次…もし俺がさ、檜佐木さんのこと好きって言ったらどうする?」
そう言った瞬間、さっきまでの恋次の温和な顔は真剣な顔に変った。
「俺はあの人を誰にも渡す気はねぇ。」
「…冗談だよ。」
恋次が強く思い声ではっきりと言った。俺はフと笑って、恋次に背を向ける。不思議と俺の気持ちは落ち着いていた。だって俺は、あの人と
あんたを引き離すつもりはねぇんだ…いくら俺があの人の立場を願っても、手に入れちゃいけないってわかってるから。だって俺は…
あの人のことを好きなお前が好きなんだから…。
2008.5.23 萌絵