spring blue  ②

 

そんな事があった日から一週間、コロネロは綱吉と話をしていない。
コロネロは一週間ずっとあの夜の事を考えていた。
今でもよくわからないモヤモヤが心の中に渦巻いているのがわかる。
『親友に裏切られたんだから当然だぜコラ…』
コロネロはそう思い、またイライラし始めた。
 
 
そんな時だった。
並盛中でとある噂が流れ始めた。
“並中のマドンナ笹川京子とあのダメツナが付き合っている”
というものだ。
 
コロネロは、噂がでたらめだと言う事を確信していた。
何故なら綱吉は自分の事が好きなのだ。
 
 
放課後、コロネロは珍しく部活へ行く気がでずに、一人教室に残っていた。
考えるのはやはり、綱吉の事だった。
「誰だあんな、でたらめな噂流してる奴は」
コロネロは無意識に呟いた。
誰もいない教室で思ったより大きな声が響き、コロネロはため息をついた。
 
「火の無い所に煙は立たないんだよ?」
 
コロネロは誰かに聞かれたことより、まず誰かいることに気付かなかった己に驚いた。
振り返るとそこにいたのは
 
笹川京子だった。
 
「どういう意味だコラ」
コロネロは思わず低くなった己の声にまた驚いた。
「そのままの意味だよ?」
京子は気にせず話し続ける。
「嘘だ!!」
コロネロは思わず怒鳴ってしまった。
しかしやはり京子は動じる様子がない。
それどころかコロネロの様子を冷静に伺っていた。
 
「どうして嘘だなんていうの?」
 
「それは…」
その言葉にコロネロは思わず息をのんだ。
 
『綱吉は俺の事が好きだからだ!』
 
そう言いそうになった。
しかし、それを京子に伝えてなんになると言うのだ。
捉えかたによっては、まるで俺が綱吉に好かれていることを主張している様ではないか!
しかも、もし本当に二人が付き合っているのであれば、京子の耳には入れないほうが良い情報だろう・・・。
 
…本当に、綱吉と京子は付き合っているのか…。
 
綱吉が京子の事が好きになれば、俺と綱吉はまた親友に戻れるのか…
それとも、もう俺への思いは間違いだと気付いて今頃一週間前の事を悩んでいるのではないのか。
 
一瞬のうちに色々な思いが駆け巡った。
しかし、二人の事を考えると、一週間前の綱吉の顔がチラついた。
 
綱吉と京子が
幸せそうに笑って、
手をつないで
キスをして…
 
一週間前までは、そうなればいいと思っていた。
しかし何故か今はダメだった。
 
二人のそんな顔を見て、親友を祝福したいと思っていた己はいなくなっていた。
 
「ねぇ、何で噂が嘘だなんて言うの?」
 
京子がもう一度聞いた。
京子の瞳は真剣で、まるで考えていることを全て読み取られているみたいだとコロネロは思った。
 
 
「それは…ツナは俺が好きだからだ」
 
自分が言ったことが何故か恥ずかしかった。コロネロは京子の顔を見たく無かったが、京子の真剣な瞳はコロネロの眼を逸らさせてはくれなかった。
 
しかし、コロネロの予想とはちがい、京子に表情の変化は見られない。
むしろ、その返事が来るのを分かっていたような様子だ。
 
「それは知ってるよ?でも、コロネロくんは綱君の事好きじゃないんでしょ?」
 
コロネロが眼を見開いた。
そんな返答は予想外だ。
あっけにとられたコロネロが、何も言えないでいると、
京子は少し口調を強めた。
 
「私がツナ君に告白したの。」
 
そのセリフにコロネロはショックを受けた。
そうか、噂は本当だったのか…
きっと、俺の事が好きだと言うのは一瞬で、やはり京子が好きだったのだ…
 
そう思うとまた胸がモヤモヤしてくるのがわかる。
京子の視線に耐えられなくなって、コロネロは俯き目をそらした。
 
「私はツナ君のことが大好きだよ?」
コロネロは耳を塞ぎたくなった。
 
「そして、愛してる。」
 
聞きたくない。コロネロは思わず京子の口を手でふさいだ。
京子は先ほどより冷ややかな眼でコロネロを見た。
 
そっと手を外させると、黙ったままのコロネロにもう一度尋ねた。
 
「コロネロくんはツナ君のこと、好きじゃないんでしょ?」
 
綱吉と付き合って、愛し合っているのならそれで良いじゃないか!そう叫びたい。
しかし、コロネロは何も言えなかった。
己の気持ちに気付くのが遅すぎたのだ。
 
好きじゃない
 
そう言ってしまえばいい。
今は無理でも、いつか二人を祝福できる時が来るかもしれない…。
 
コロネロは口を開いた。
 
 
 
「ツナが好きだ…」
 
コロネロは自分の口から出た言葉に驚いた。
 
慌てて京子の顔をみると、京子は何故かスッキリとした顔をしている。
 
 
パシンッ!
 
驚いたのはコロネロだ。
いきなり感じた頬の熱に、眼を見開いた。
 
「コロネロくんの馬鹿!」
 
京子が怒鳴るのをコロネロは初めて見た。
コロネロは茫然と京子を見つめる。
 
「好きなら好きって言えばいいじゃない!ツナ君ははなたの事が好きなのよ?!」
 
コロネロは、訳がわからない。
 
「告白したけど、振られたの…ツナ君はコロネロ君の事が好きなんだって…きっと嫌われたけど、それでもコロネロ君の事が好きなんだって!」
 
コロネロは何も言わない。
それでも京子は続けた。
 
「コロネロ君の馬鹿!好きなくせになんでツナ君の事を傷つけるの?!」
 
 
 
そこまで叫ぶと京子はやっと肩の力を抜いた。
 
「って、今日はコロネロ君に言いに来たんだよ。」
 
京子は笑っていた。
しかし、何となく無理をして笑っているように見えた。
 
「…京子は俺の気持ちがわかってたのか?」
「うん。いつも二人を見てたから…。」
 
京子の綱吉への気持ちは本物だ。
コロネロはそれがわかって、京子を尊敬した。
 
「早くツナ君に言ってあげて!」
 
京子は笑顔で言った。
声が少し震えているのは気のせいではないだろう。
しかし、コロネロには掛ける言葉が見つからずに
 
「ありがとう」
 
そう言って頭を下げて出て言った。
 
走りさっていくコロネロが視界から消えると、京子は窓際の席に座った。
コロネロは、もう校庭を全速力で走り抜けている。
「これ以上ツナ君を泣かせたら許さないんだから…」
そして小さくつぶやいて、窓をしめた。
 
 
 

つぎ!