あいつ

 

「どうしよう!阿近ちゃん!!」
 
「…何かあったのかよ…。」
 
「かっこいい人に会った…。」
 
修兵と知り合って数年、修兵が俺にそんなことを言い出すのは初めてだった。
 
 
 
修兵は流魂街の餓鬼だ。また、流魂街の中でも治安が悪いところである。俺がたまたま外に出た時、出くわしたのだ。
 
「で、で、こう化け物をどかんて倒して!」
 
修兵が身振り手振りしながら興奮して話す。
 
「…阿近ちゃん聞いてる?」
 
「…聞いてる。」
 
俺はそんな修兵を見ながら少し不機嫌になりながら返事をする。
 
「そんでね、そんで…俺に泣くなって言ってくれて…」
 
修兵のトーンが下がる。今までとは違ってゆっくり一言一言を大切にするかのように話す。
 
「俺の名前…つよそうって言ってくれたんだ。」
 
修兵は俺が今まで見たこともない笑顔で俺を見る。あんな修兵の顔、見たことない。あんなに嬉しそうに話す修兵を見たことがない。…むか
 
つく。
 
「その人、いれずみしてた。」
 
「刺青?」
 
「うん!69ていう!俺、それ入れたい!大人になったら入れたい!!」
 
刺青を入れるということがどんなに大変なのかわかっっているのだろうか、修兵は眼をキラキラさせていた。俺はまだ大人じゃねぇし、齢だっ
 
てまだ少ねぇから技局開発の死神以外の死神をあまり、知らない。でも、69と刺青を入れている死神なら知っている。…あいつだ。
 
「たしかねぇ、むぐるまけんせいって人!」
 
満面の笑みを浮かべて、嬉しそうな修兵。…あんなやつ、大嫌いだ。
 
 
 
「あ、阿近ちゃん!」
 
向こうから修兵が俺を呼ぶ。顔を上げるとそこには修兵と修兵を膝にのせたあいつがいた。
 
「けんせい、阿近ちゃんだよ。」
 
「あ~こいつか。知ってるぜ。」
 
膝にのったまま、動こうとしない修兵はそいつの死魄装を掴み、俺の方を指す。
 
「けんせいと阿近ちゃん知り合い!?」
 
修兵は驚いてるようだが、実際、話なんてしたことはない。ただ、局長と話すとき、傍にいただけだ。
 
「なら言えよ~!」
 
修兵はずっとあいつの方を見ている。俺はさらに腹が立ってきて、その場を去った。
 
 
 
「今日はここまでにしようかネ、阿近。」
 
「お疲れ様です。副局長。局長。」
 
「気をつけて帰ってくださいねぇ。」
 
局長と副局長に挨拶をして技局開発を去ろうとした。
 
「ウチに挨拶はなしかい!!!阿近!!!」
 
「…さようなら。」
 
「棒読みか!!!」
 
ひよりが蹴りを入れてくるので俺はすぐに左の方へ顔をそらした。
 
「避けんな!!ぐわぁぁぁ!!!腹立つわぁぁ!!!」
 
一人、怒っているひよりをほっておいて俺は技局開発のドアを開けて外に出た。
 
 
 
トボトボ歩きながらあいつと修兵のことを考えていた。すると、向こうのほうに見覚えのある姿があった。
 
「…修兵。」
 
「あっ!阿近ちゃん!」
 
修兵は俺の姿を見るとすぐに走ってきた。
 
「どうしたんだよ…。」
 
「今日、阿近ちゃん、調子悪そうだったから。」
 
罰の悪そうな顔をして下を向いている。多分、俺が不機嫌だったからだろう。
 
「別に調子なんて悪くねぇ。」
 
「ほんと!?」
 
修兵がパッと顔を上げて俺の方を見た。その眼には心なしか、涙が浮かんでいる。
 
「ほんとだよ、嘘言ってどうすんだよ。」
 
「よかった…阿近ちゃん…病気だっ…たら…どし…ようか…ひく…て…ひく…。」
 
修兵が本格的に泣き出した。俺は焦って死魄装の裾で修兵の涙を拭く。
 
「泣いてんじゃねぇよ。」
 
「うえ…だって…ひくっ…阿近ちゃ…ん…死んじゃったら…ひくっ…やだよう!…うえ…阿近ちゃん…大好きだから…死んじゃ…ひくっ…や
 
 だ…!うわぁぁぁん!!」
 
修兵が泣きながら俺のことを大好きって言っていた。空耳なんかじゃない。修兵が大声で泣いている。俺はそれを抱きしめた状態で修兵の
 
頭を撫でていた。
 
「おいおい、俺みてぇに強くなるんじゃなかったのか?修兵。」
 
!?」
 
背後からそいつの声がする。すると今まで泣いていたはずの修兵がパッと顔を上げて俺越しにそいつを見た。
 
「けんせい!」
 
「餓鬼二人が危ねぇだろ。」
 
修兵はすぐにあいつのほうへ駆けていく。さっきまであんなに泣いていたのに。
 
「阿近ちゃん、帰ろう。」
 
そう言って修兵は俺の方へ手を出してきた。俺はとまどいながらその手を握りしめた。
 
「俺ね、阿近ちゃんもけんせいも二人ともだぁいすき!」
 
握った手をブンブン振りながら修兵が無邪気に言った。
 
「まぁ、俺も嫌いじゃねぇよ。」
 
満更じゃなさそうな顔をするあいつ。
 
「阿近ちゃんは?」
 
「は?」
 
「阿近ちゃんは俺のこと嫌い?」
 
少し眉毛を寄せて、泣きそうな顔をする。そんな顔で見られた俺はとっさに答えた。
 
「…嫌いじゃねぇ。」
 
不覚にもあいつと同じ答え方をしてしまった…。
 
 
好きだって言えたらよかった…。
 
 
 
 
 
「…懐かしいもん見たな…。」
 
まだ半分起きていない状態で煙草に火をつける。夢自体、久しぶりに見る気がする。
 
「六車拳西か…。」
 
もし、修兵が今、あいつに会ったならどうするだろうか。あいつの所へ、あの嬉しそうな顔で駆けていくのだろうか。
 
「そうはさせねぇ。」
 
無理矢理にでも引き留めてみせる。あいつなんかに渡してたまるか。
 
「そもそも俺は昔からあいつが気に食わなかったんだよ…。」
 
俺の1番を奪ったあいつが。
 
 
 
 
 
 
 
*あとがきという名の反省文*
誰だ…!!!別人――――――!!!!!!阿⇔修⇔拳的なものを書こうとしたらちみっこになっちゃった!!!!!いや、おじゃんぷ様の影響なんですけどね!!もうちみっことか妄想で99.9999…%成り立ってますから別人です!!!とりあえず、阿近さんは小さくても知識だけはめちゃありそうだな、と思いました(笑)

                                                          2008.5.14                                       萌絵